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東京地方裁判所 昭和48年(行ウ)97号 判決

東京都品川区旗の台六丁目七番一六号

原告

小川保人

右訴訟代理人弁護士

関口保

東京都品川区中延一丁目一番五号

被告

荏原税務署長

右訴訟代理人弁護士

国吉良雄

右指定代理人

室岡克忠

新保重信

中川和夫

牧憲郎

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和四五年三月一四日付で原告の昭和三九年ないし同四一年分の各所得税についてした更正のうち、昭和三九年分については総所得金額一二〇五万九三三二円、同四〇年分については総所得金額一二七一万九〇〇一円及び同四一年分については総所得金額九一三万二八〇二円をそれぞれ超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告が昭和三九年ないし同四一年分の所得税についてした各確定申告及び同三九年分の所得税についてした修正申告、これに対して被告がした各更正及び原告の異議申立てについての各決定並びに国税不服審判所長がした原告の審査請求に対する各裁決の経緯は別表一の(一)ないし(三)記載のとおりである。

2  しかしながら、右各更正(昭和三九年分については右異議申立てについての決定及び右審査請求に対する裁決並びに同四一年分については、右審査裁決によってそれぞれ維持された部分。以下「本件各更正」という。)のうち、昭和三九年分については総所得金額一二〇五万九三三二円、同四〇年分については総所得金額一二七一万九〇〇一円、及び同四一年分については総所得金額九一三万二八〇二円をそれぞれ超える部分は後記五の理由により違法である。

3  よって、原告は本件各更正の取消しを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告の昭和三九年ないし同四一年分(以下「本件係争各年分」という。)の総所得金額及びその内訳は別表二の各該当欄記載のとおりである。

2  本件係争各年分の雑所得は、いずれも貸金による利息として収受したものであり、その算出根拠は次のとおりである。

(一) 昭和三九年分の雑所得の金額((1)-(2))

一〇三〇万四六三九円

(1) 収入金額 一五四二万三〇五二円

〈1〉 泰明観光株式会社から 二二四万〇三三二円

〈2〉 株式会社昭映ら五名から 一三一八万二七二〇円

(2) 必要経費 五一一万八四一三円

(二) 昭和四〇年分の雑所得の金額((1)-(2))

一三八〇万一五二三円

(1) 収入金額 一八六八万九二六一円

〈1〉 泰明観光株式会社から 七七五万〇二九一円

〈2〉 小川吉衛ら二名から 一〇九三万八九七〇円

(2) 必要経費 四八八万七七三八円

(三) 昭和四一年分の雑所得の金額((1)-(2))

三一〇五万二四一〇円

(1) 収入金額 三九六五万二一一六円

〈1〉 泰明観光株式会社から 三〇二〇万一五八六円

〈2〉 小川吉衛ら三名から 九四五万〇五三〇円

(2) 必要経費 八五九万九七〇六円

3  したがって、本件係争各年分の各総所得金額は本件各更正に係る各総所得金額を下回らないから本件各更正は適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1のうち、別表二の本件係争各年分の各不動産所得及び給与所得が被告主張の金額であることは認め、各総所得金額及び各雑所得金額は争う。

2  被告の主張2のうち、本件係争各年分の雑所得に係る収入金額がいずれも貸金による利息として収受したものであること並びに泰明観光株式会社(以下「泰明観光」という。)以外の各取引先からの収入金額及び必要経費の金額が被告主張の金額であることは認める。泰明観光から被告主張の金額の利息を受領したことは認める。

五  原告の主張

1  原告が泰明観光から受領した本件係争各年分の利息は、いずれも利息制限法所定の制限を超過したものであり、その制限内の利息及び制限超過利息の金額は次のとおりである。

(一) 昭和三九年分

〈1〉 制限内利息 八三万七四三六円

〈2〉 制限超過利息 一四〇万二八九六円

(合計二二四万〇三三二円)

(二) 昭和四〇年分

〈1〉 制限内利息 二九八万九一八四円

〈2〉 制限超過利息 四七六万一一〇七円

(合計七七五万〇二九一円)

(三) 昭和四一年分

〈1〉 制限内利息 一一六二万一三二八円

〈2〉 制限超過利息 一八五八万〇二五八円

(合計三〇二〇万一五八六円)

2  泰明観光は、昭和四七年五月八日原告に対し、泰明観光が既に原告に支払った前記利息のうち、〈1〉昭和三九年分の一二九万四二九二円、〈2〉同四〇年分の六五一万六七二四円及び〈3〉同四一年分の一七五七万二四五八円の各金額は、いずれも利息制限法所定の制限を超過して支払われたものであるとしてその返還を請求し、右金額を泰明観光の原告に対する貸金元本債務の弁済に充当することを求める旨を申し出た。そこで、原告は同月一〇日右申出を承諾し、右返還請求に係る利息(ただし、昭和四〇年分については、制限超過利息の範囲である四七六万一一〇七円・前記1の(二)〈2〉参照)の金額を前記貸金元本の弁済に充当するものとして処理した。

原告が泰明観光から受領した利息のうち、右貸金元本の弁済に充当処理した金額については、所得税法第一五二条、同法施行令第二七四条により更正の請求をし得るというべきである。

3  そこで、原告は昭和四七年五月一九日本件各更正についての審査請求を審理中の国税不服審判所長に対し、審査請求に追加して更正の請求をした。

4  本来、右更正の請求は、税務署長に対して行なうべきものであるが、原告はその当時本件各更正について国税不服審判所長に対し審査請求中であり、国税不服審判所長がした裁決は当然原処分庁たる被告を拘束するものであるので、被告と話合いのうえ、国税不服審判所長に対し審査請求に追加して更正の請求をしたものである。

所得税法第一五二条の規定は、更正の請求について原則を規定したものであり、かつ、納税者に対する救済規定であるから、更正について審査請求がされている場合は、国税不服審判所長に対し更正の請求をしたときは、原処分庁である当該税務署長に対し更正の請求をしたものとみなすべきである。

5  したがって、原告の本件係争各年分の雑所得の金額は、別表二の各金額から右2の利息制限法の制限を超過した利息で貸金元本の弁済に充当するものとして処理した各金額(昭和三九年分は一二九万四二九二円、同四〇年分は四七六万一一〇七円及び同四一年分は一七五七万二四五八円)を差し引いた金額、すなわち

〈1〉 昭和三九年分 九〇一万〇三四七円

〈2〉 同 四〇年分 九〇四万〇四一六円

〈3〉 同 四一年分 一三四七万九九五二円

である。

六  原告の主張に対する被告の認否及び反論

1  原告の主張1の事実のうち、利息制限法の制限内利息及び制限超過利息が原告主張の各金額であることは否認する。泰明観光が原告に対し支払った利息に係る貸金の貸付日、元本の額、貸付期間及び利率等は不明であるから、右制限超過利息の算出はできないものである。

2  原告の主張2の事実のうち、泰明観光が原告主張のような返還請求をしたことは否認する。

以下述べる事情からすれば、泰明観光が返還請求をすることはありえないし、仮にしたとしても、原告をして課税を免れしめるための原告と通謀した仮装行為と推認される。すなわち、

泰明観光が原告に対し利息制限法の制限超過利息の返還請求をしたという昭和四七年当時、原告の泰明観光に対する貸金七四〇〇万円の債権は免除及び弁済によって消滅していたものである。

また仮に、右債務が消滅していなかったとしても、泰明観光は、昭和四二年六月ごろ債務超過により破産状態に陥って倒産し、同年七月解散し、右四七年当時は清算中であって会社経営の実体はなく、また資力は全くなかったのであるから、その債務があったとしても実質的に支払不能の状態にあり、また事業再開の意思もなかったものである。したがって仮に、泰明観光が原告に対し右制限超過利息の返還請求をしたとしても、泰明観光にとって債務額の減少は単に数額上のものに過ぎず、経済的には何らの実益はないのであるから、泰明観光が返還請求をすべき必要性があったとは到底考えられない。

また泰明観光は右昭和四七年ごろ右制限超過利息に係る原告との手形割引に関する帳簿・資料を所持していなかったもので、原告に対して返還請求をすべき制限超過利息の額についてはその計算が不可能の状態にあったし、原告以外からも高利で借入れをしていたのにかかわらず、これらの貸主に対しては、超過利息の返還請求をした事実はない。

3  原告主張の3の事実は否認する。原告は本件更正についての審査請求の審査の過程において、国税不服審判所長に対し、原告主張の制限超過利息の返還請求に関する「申告所得税の審査請求書の補正について」と題する書面及びそれに関する資料を直接提出し、本件各更正の取消しを求める理由として追加的に主張したに過ぎないものである。

4  原告の主張4のうち、原告主張の更正の請求なるものが原処分庁と話し合いのうえでされたとの点は否認する。

所得税法第一五二条の規定による更正の請求は、所轄税務署長に対してしなければならない要式行為であるから、原告がした右3のような追加的主張をもって、同条にいう更正の請求とすることは到底できないものである。

七  被告の反論に対する原告の認否

泰明観光の原告に対する利息制限法の制限超過利息の返還請求が原告と通謀した仮装行為であるとの被告の主張は争う。

泰明観光が昭和四二年六月ごろ倒産し、同年七月解散した事実は認め、原告の泰明観光に対する貸金七四〇〇万円の債務が免除及び弁済によって消滅したとの事実は否認する。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第三号証の各一ないし三、第四号証、第五号証の一ないし三及び第六ないし第八号証を提出

2  証人中稲一馬の証言を援用

3  乙第三号証の一・二、第四ないし第六号証及び第一一、一二号証の成立は不知。その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証の一・二、第二号証、第三号証の一・二及び第四ないし第一五号証を提出

2  証人中稲一馬、同三木栄一の各証言を援用

3  甲第四号証及び第六号証中、官署作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は不知。第五号証の一ないし三の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一  請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各更正に原告主張の違法があるか否かについて判断する。

1  まず、原告の本件係争各年分の不動産所得及び給与所得の各金額が別表二の各該当欄記載のとおりであることは当事者間に争いがない。

次に、雑所得については、本件係争各年分の収入金額がいずれも貸金による利息として収受したものであること並びに泰明観光以外の各取引先からの収入金額及び必要経費の金額が、それぞれ被告の主張2(一)ないし(三)の各(1)の〈1〉及び(2)記載のとおりであること並びに原告が泰明観光から右(一)ないし(三)の各(1)の〈2〉記載の金額の利息を受領したことは当事者間に争いがない。

2  原告は、泰明観光が昭和四七年に至り原告に対する支払利息の一部につき利息制限法所定の制限を超過して支払われたものであるとしてその返還を請求し、原告がこれを承諾し、右返還請求に係る利息で右制限を超過している利息の金額を泰明観光に対する貸金元本の弁済に充当するものとして処理したこと及び右事実に基づき更正の請求をしたことを前提として、本件各更正の違法を主張するものである。

しかしながら、原告主張に係る右返還請求等の事実は、仮に右事実があるとしても、本件各更正がされた後に至り生起した事実であつて、被告が本件各更正をするに当つて原告の総所得金額を算出するにつき、その存在を前提とし得る事実ではなかつたことは、原告の主張から明らかである。してみると、右のような事実の生起それ自体をすでにそれ以前にされている課税処分たる本件各更正の違法事由とすることはできないし、仮に右事実に基づき更正の請求をすることによつて本件各更正の是正を求め得るとしても、国税通則法第二三条によれば、更正の請求は右請求に対する応答として税務署長によりなさるべき更正により課税処分等の是正がされるという手続構造をとつているのであるから、右請求それ自体によつて当初の課税処分たる本件各更正そのものが遡及的に違法となるものではない。

そうしてみると、原告主張に係る返還請求等の事実の存否並びに原告が行なつたと主張する更正の請求の存否及び適否につき審究するまでもなく、これら事実を前提として本件各更正の違法を主張する原告主張は、主張自体失当といわなければならない。

三  よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 菅原晴郎 裁判官 山崎敏充)

別表一の(一)

(昭和三九年分)

〈省略〉

別表一の(二)

(昭和四〇年分)

〈省略〉

別表一の(三)

(昭和四一年分)

〈省略〉

注―△印は損失を示す

別表二(総所得金額とその内訳)

〈省略〉

注―△印は損失を示す

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